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『満開の桜の下で』
2 1・2 夜 店外 3・4・5・6 店内 カウンター内にジョー、 小藪はいつものカウンター奥の席 ジョ「今年も桜の季節は過ぎて・・・・」 小「新緑の季節だねえ」 7・8 小「それも束の間、またじんわり暑くなって ジメジメの梅雨になり、その後はまた鬱陶しい夏だ」 ジョ「またボツさんがぼやきますね」 ボ「ちわ〜す」 3 1・2 ボ「あ〜あ、梅雨前だってのに汗だくですよ。 やっぱり欠陥品だネ、地球は。 またスノーボール頼んます」 小「すでにぼやいていたか」 3 ボ「? なんすか?」 小「いや、なんでもねえよ」 4 小「桜といえば、チェリー・ブロッサム というカクテルがあったよな。大正時代に 横浜の有名なバーのオーナーが考えたそうだが」 5・6 小「桜で思いついたらしいんだが、 桜といえば白か桃色だよな。 白が染井吉野で桃色は八重桜か。 何種類かあるらしいがね」 ボ「まあ、白とピンクの濃淡しか思いつかないね」 7 小「ところがあのカクテルは、誰が作っても赤だ ・・・・いや、もっと赤黒い、固まりかけの血のような・・・・」 ボ「イヤな例えだネ」 8 ジョー、ボツにスノーボール出して、 ジョ「ワインレッドですかね」 小「うん、桜の実が赤いとしても それを連想する日本人はまずいないだろう。 やっぱりさくらんぼのチェリーだよな」 4 1 ジョー、カクテルブックを見て、 ジョ「でも日本の桜が定説みたいですね」 小「権威が一旦決めると変えられないってのは ありがちだわな」 2 小「マティーニ1つでも膨大なオリジナルが あるってぇし、本当に日本の桜を模したものが あってもいいと思うんだがねえ」 ジョ「お作りしましょうか」 3・4 ジョ「当店オリジナルの チェリー・ブロッサム。白とピンクの二種類です」 5・6 ボ「おー、こっちの方がいいネ」 ジョ「最近は桜リキュールもあるから便利ですよ」 7 小「淡い桃色や白が日本の桜の魅力だよな」 ボ「じゃあこの二つをこの店の チェリー・ブロッサムてことにしたら?」 ジョ「では、新作追加ということで」 8 ボ「あ、桜といえば、 こないだ久々に勤労青年を見かけたな」 5 1 ボ「桜が咲いていたから四月上旬かな、 夜歩いてたら彼女らしき人と一緒で」 回想 青年と彼女が歩いてくる 2 ボ「話に夢中でこっちに気づかないまま 通り過ぎてったよ」 ジョ「そういえば彼、最近来てないですね」 3・4 小「だいぶぼやていたから、 また職探しでもしてんのかな」 ボ「彼女持ちなら余裕でしょう。 もっと苦労すればいいのに」 ジョ「ボツさんは彼女持ちには鬼になりますね」 5・6 青「こんばんは〜」 ボ「お、噂の青年来た」 7・8 ジョ「いらっしゃいませ。久々ですね」 青「しばらく田舎帰ってました。 あ、ジンフィズお願いします」 ボツの右隣着席 6 1 ボ「ん? 職探しじゃなかったの?」 青「まあ、それもありますけどね」 2 ボ「それにしても、君に彼女がいたとはなあ」 青「え? なんで?」 3 ボ「いいよ、気ぃ遣わなくても。 ここの三人は生涯見込みないけど、内心はともかく 他人を祝福する余裕はあるよ」 青「? どういうことですか?」 4 青「俺、彼女なんていませんよ。 いたことないし」 ボ「は? だってこないだの夜、 一緒んとこを見たよ」 5 ボ「四月上旬だったかな、桜が咲いてる頃だよ、 図書館前を歩いてたでしょ?」 青「ん〜・・・・?」 6 ボ「別に隠さなくてもいいじゃんか。 あ、同伴なんとかとか、そういうのかな?」 青「いえ、3月下旬から4月上旬は 田舎帰ってたんですよ。人違いじゃないですか」 7 ボ「そんなはずねえって、 ねえちゃんと一緒だったろ」 青「あ〜・・・・たしかにそうだけど・・・・」 8 ボ「ほら〜、なんだよ、もったいぶるなよ」 青「いや、ねえちゃんてのは、 ほんとにねえちゃんですよ。姉貴」 7 1 青「田舎帰ってたときに満開の桜んとこを 姉貴と歩いたのはたしかだけど、 こっちではないですよ」 ボ「するってーと何かい? ボクの勘違い?」 2 小「すごいなあ。ボツは透視できるのか、 でまかせこいてるのか、どっちかだな」 ボ「ちょっと心外だなあ、 ボクは正直で人の機嫌を損ねることは あっても嘘は言わないよ! できるだけ」 ぶぶー 3 ボ「まあわかった、ボクが目撃したのは 青年と姉貴だったわけだな。うん、納得しよう。 しかし場所と時期が合ってないな」 青「でもこっちでは 桜はとっくに散ってましたよ」 4 ボ「青年よ、それはボクの記憶違いと 強調することになるぞ」 青「ボツさんに話合わせたら、 俺が嘘をついたことになっちゃうでしょ」 5 ボ「つまり、姉貴と一緒だったのは田舎にいた ときで、こっちではないんだな? 他の誰ともないんだな?」 青「・・・・あ〜、そうか」 6 ボ「なになになに、他にいたのか? 隠さず言ってくれよ。ボクの名誉もかかってんのよ」 青「こっちで見たってことは、 やっぱり姉貴だな・・・・」 7 ボ「んん? 田舎じゃなかったの?」イラッ 青「違うんですよ、帰ってしばらくして、 姉貴が友達とコンサート観に来るってんで、 姉貴だけうちに寄ったんですよ」 8 青「一緒に近所歩いたから、 そのときじゃないですか? でも、桜の時期は過ぎてたけどなあ」 ボ「では、ボクが見たのは勘違いの記憶違いと?」 8 1 ボ「で、友達ってのは姉貴の彼氏か? その人はそのときどうしてたの?」 青「いえ、学生当時からの女友達で、一緒に 泊まることになってたホテルで待ってたそうです」 2 ボ「まあ、女友達でも彼氏でもいいけどさ、 時期にズレがあるなあ」 青「俺だって覚えてますよ。こっちで姉貴と 歩いてたときは桜の時期は過ぎてましたよ」 3 青「ボツさんもボケの気があるから 思い込みがあるんじゃないですか?」 ボ「うわわ、ボボボクがボケだから 間違ってると!?」 4 ボ「わからんことはわからん、 知ってることは知ってる、常に正直にして来たし、 嘘で人を傷つけたことはないぞ!たぶん」 カウンタードン! 小「まあまあ、判ってきた。ポイントは桜だな」 5 小「さっきも話していたんだがね、桜にも種類が あって開花時期も違う。で、 地域によっても変わるだろ」 6 小「桜前線の北上は知られているが、 西日本が先、東日本が後とか、大阪が先で東京が後 と思いきや、そうでもない。大都市はほぼ同時期だ。 7 小「特に今年は雨が続いて開花が遅れた。 気象庁の発表も厳密ではなくて、どこそこでは 満開としながら、しばらく離れたところでは 五分咲き程度とバラツキがあった」 8 小「この辺りの開花も遅れて、 且つ早々に散ったかもしれないな」 ボ「お言葉ですが、同じ場所でボクは満開の桜、 青年は散った後と言っています」 9 1 小「その桜ってのは近所のあそこか? 図書館の・・・・」 ボ「うん、図書館の横の並んでるとこ」 2 ボ「その図書館前で青年が姉貴と歩いていました。 そうですね?」 青「それはそうだけど・・・・」 3 小「ボツも青年も嘘は言っていない、てことか」 ボ「ボクからするとそうは思えないんだがなあ」ジ〜 青「それは俺も同じですよ」 4 小「うん、じゃあもうちょい時期を確認しようか。 ボツが見たのはいつだ? 先月の?」 ボ「桜が咲いてたから上旬でしょう。 日にちまではなあ」 5 小「青年はどうだい?」 青「姉貴が来たのは先月の、 たしか18日の火曜日です」 6 ジョ「18日ならこの辺で桜は咲いてないですね」 小「そうだな。遅くても10日前には終わりだろう。 毎年のことだからな」 7 小「てことは・・・・」 ボ「いや〜、ちょっと待ってよ、青年と姉貴が 歩いたのを見たのは合ってるでしょうに。 見たから言えたことですよ」 8 小「ボツの勘違いじゃねえかなあ」 ジョ「そういえばボツさん、 正月に妙なことを話していましたね」 10 1 ジョ「部屋の壁が高く伸びたとか、 地べたから手が手招きしたとか・・・・」 ボ「ボクが見たのは幻覚だと!?」 2 ボ「じゃあナニかい、ボクが目撃した青年と 彼女も幻覚で、今ここにいる青年ももしかしたら 存在しないんかい! お二人も幻覚を見てんのか?」 小「落ち着けよ、記憶が前後してゴッチャに なるなんてよくあることだよ」 3 ボ「おーし、受けて立つ! やい青年、 もしそっちの言い分が間違っていたらどうする」 青「どうするって・・・・どうも何も・・・・」 4 ボ「もしボクが間違っていたら、 君におごりましょう。お代わり付きでいいよ」 ジョ「それだけ?」 5 ボ「でまかせやハッタリではなく、 出来ることを約束する! どうだい青年!」 青「・・・・いいですよ。同じ条件にしましょう」 6 夜 店外 7・8 店内 ジョー、小藪、ボツの三人 ジョ「青年は帰宅して、いつもの面子となりました」 小「時は過ぎれど結論至らず、か」 11 1 ボ「ボクの勘違いかなあ・・・・いや、 二人が歩いたのは見たし、本人も認めてるし!」 2 ボ「あ〜モヤモヤするな〜、不愉快だ」 小「なんだか『羅生門』という 黒澤映画を思い出したよ」 3・4 殺された武士を巡って、複数の人間の目撃証言が 食い違うんだ」 5 小「それぞれ立場も事情も違うが、 共通してるのは、追い詰められた者達は 己を守るために何でもするし偽る」 6 ボ「ボクは偽っていませんよ!」 小「わかってるよ、食い違いで思い出しただけさ」 7・8 外 小藪とボツが歩く ボ「青年があんなに意固地だったとは 思わなかったよ。実に不愉快だネ」 小「向こうも同じこと思ってたりしてな」 12 1 ボ「ヤブさんがボクの立場だったらどうしてた?」 小「俺か・・・・あーそうですかで済ませるかな」 2 小「勘違いくらいあるさ、人間だもの、 こやぶ、だな。じゃあな」 ボ「納得いかない」ぶー 3・4 小「図書館の桜か・・・・」 前方に図書館 5・6 視線の先には桜の枝先 小「ほ〜・・・・なるほど・・・・」 7・8 店外 ー翌日 13 1・2 店内 ボ・青「え、わかったの?」 小「あそこの桜は特別なんだよ」 3・4 小「これからみんなで花見に行こうか」 ドアに立つ小藪 ボ「何言ってんの、もうとっくに時期過ぎてるよ」 5・6・7・8 桜の前、小藪達4人 小「な」 ボ「満開の桜・・・・」 14 1 枝先は暗く葉の形 ボ「・・・・じゃないね」 小「だろ」 2 小「で、少し離れたこっちの桜は・・・・」 ボ「真っ暗・・・・」 3・4 小「てなわけで、夜、下から照明に照らされた 葉桜は、白く反射して満開の桜に見えたとさ」 ジョ「でも、花は無くて葉っぱだけですよ」 5 ボ「マスター、視力は?」 ジョ「以前測ったら2.0 でしたが・・・・」 6 ジョ「ボツさんは?」 ボ「0.01 以下」 7 ジョ「え? え?」 ボ「メガネはずすとマスターがぼやけて見えるよ」 8 ジョ「でも、メガネしてたんでしょ?」 ボ「メガネしてても視力は下がる。 たぶん0. いくつかな」 15 1 ボ「・・・・そうか、ボクが見たのは 満開の葉桜だったわけネ」 小「決着だな」 2 ボ「まいった、不良品の目玉のせいだ。 青年、今夜はボク持ちネ」 青「いや、いいですよ、お互い 嘘言ってないことわかったし」 3 ボ「ボクが君に約束したろ、忘れたんか」 青「それはボツさんが言い出したことでしょ」 4 ボ「君の遠慮でボクが同情されてるようで 不愉快だネ」 青「もう理由が判ったんだし、 これで奢られたら俺がみみっちく思えて 嫌なんですよ」 5・6・7・8 言い合いのボツと青年 ジョ「また揉めてるようですね」 小「一件落着。さ、店戻ろう」 終 Peter Bernstein and the Lori Mechem Trio - " Nobody Else But Me" なんじゃいねこれ。 >削除しました。児童虐待に関するコンテンツを >見つけたらご報告ください。 身に覚えがない。
by huttonde
| 2017-05-04 19:30
| 漫画ねた
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