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吉兵衛は三の丸役人詰所の六畳分板の間一室を、資料作成の 場として借り受けて、家来と五人で自己紹介を経て打ち合わせ となった。 いずれも若い四人のうち二人は、吉兵衛が雇っていた中間 (武家奉公人)で、もう二人は城山修理による手配であり、 槍持と物書き頭である。 「槍持を仰せつかりました佐島兵吉にございます。 これより半年、よろしくお願い致します」 兵吉は、いかにも長年鍛えて来たであろう骨太のずんぐりした 大柄で、ゆっくり一礼した。 槍持は単に持っているだけでなく、いざとなれば槍を振る 護衛役で、道場で鍛錬を積み、評価された手練の者だけが担える 名誉の役である。 「護衛を受けるのは俺も名誉だ。よろしく頼む」 「物書き頭を仰せつかりました山野平四郎にございます。 修理様より話を伺いまして、大変興味深く、今から楽しみに ございます」 平四郎は城の事務を担う達筆が必須の一人で、資料作成の 大任から、その中でも筆頭の者が城山修理から頭として 任された。 詳細な調査の取りまとめは、素人の吉兵衛よりも平四郎に 頼ることになる。 厳(いかめ)しい大柄な兵吉に対し平四郎は小柄で、 落ち着いた表情から才智みなぎる雰囲気を感じさせる。 「武松と正吉は文箱持ちを頼むよ」 中間の二人は、かさばる紙を運び、雑用全般を受け持つ。 二人は戦に出なかったことにホッとするものの、平凡な雑用の 毎日と違って今回の特別な役目への関わりに、やや緊張を 示した。 「つまり新たな郷土資料の作成でしょうか」 平四郎が問うた。 「うん、まあ現状の報告書だね。題名は決めたよ。 『石峰事書』だ。この領内のあらゆることをまとめ記す。 それを見れば領内が分かるというものだ。それだけに、 世間に出回るものにはなれないが、石峰と本城にはあった方が いいだろうな。城主が変わっても誰になろうとも、この一帯を 治めて、より良くするには、徹底的に知ることだ」 「城主が変わる・・・・?」 兵吉が気にしたが、 「いやいや、誤解せんでくれよ、ここをもっと良くする、発展 させるにはどうするか、ってのがきっかけだったんだ。それなら 事前に知らなきゃどうにもならんからね。で、興味が湧いて、 暇を見てはあちこち回ってたんだが、それじゃとても足りない。 それで修理様にもお願いして、一大資料作成の許可を得たって わけなんだよ」 四人共に真摯に聴き入っている。 「そうだ、まだ話してなかった。俺は茅部城下の出で、その後は 須田城に移って、しばらく領内で雑用を請け負って、最近に なってこっちに仕官が成ったんだが、二人は地元の者かな?」 吉兵衛に問われると兵吉は、 「・・・・それがしは、親方(繁春)の家来として、城主になられる という内匠助様に従って、本城から移って参りました」 「ほう・・・・だいぶ期待されてるんだね」 平四郎は、 「はい、それがしは、この城下で生まれ育った農家の次男坊 でして、寺子屋で教えていたときに、師匠から城に紹介されて 下働きから始めまして・・・・」 城山修理から頼まれただけあって、これまでの経緯を 聴くと、やはり共に優秀な人材であることが分かる。 「農家の次男三男となりゃあ邪魔ってなるからなあ。 どうにも合点が行かねえ。それが当たり前っつう 考えも、今の仕組みも違うんじゃねえかと思うが、 じゃあどうすりゃいいかさっぱりわからねえ・・・・」 吉兵衛自身、百姓の倅であり、世間の価値や仕組みに 理不尽さを感じ、反発もあった。 「このままでいいとは思えないんだがなあ・・・・」 ぼそっとつぶやくと遠くを見る目で黙ってしまった。 「旦那?」 武松が声をかけた。 「ん? ああ、ごめん、考え事すると止まっちまうんだ」 と苦笑した。 (そういえば・・・・) 武松と正吉の二人を見ると、六蔵の下にいた 自分と弥助に重なって見える。 まだ間もないとはいえ、このまま雑用ばかりの中間を いつまでも望んではいないだろう。だが、それで一生を 終える者は少なくない。 (なんとか進展の手助けが出来ればいいが・・・・ 恨まれたくない俺の自己保身、見栄かな・・・・) と、少し気がかりだった。 吉兵衛は兵吉と平四郎に、 「・・・・それにしても、貴殿らも修理様から頼まれただけあって、 尋常ではないとお見受けした。大変心強い。何卒お頼み申す」 と姿勢を正して会釈した。 石峰城の所領は約半分以上が山である。 各地の人口や世帯数といった数字は、毎年徴税の際に報告さ れるが、農業や各商売の実情、住民の事情まではさすがに 把握していない。 これまでの城の資料も取り寄せて、城内の徴税などの担当役人 を招いて直接話を聴いて参考にすると、改めて所領の地図を 真ん中に五人で囲み、現地調査のための日程を組むべく話を 進めた。 平四郎が説明する。 「領内は四郡三十村、城下含めて三十一ヶ所、城下と違い山奥 となれば、場所によっては往復でも半日以上潰れます。およそ 百八十日間ですからそれぞれ五日弱、城から村、あるいは村 から村への移動を含めて、更に書面にまとめるとなると、 現地調査は長くて三日程度に収めるのが無難と 思われますが・・・・」 平四郎らしく、書面の手間は真っ先に気になるところだろう と吉兵衛も察しがつく。 兵吉もぼそっと、 「・・・・場所によっては城へ戻らずに、村から村へと移動した方が よさそうですね。しかし山越えとなると・・・・」 吉兵衛は頷いて、 「うん、まあ焦らず行こう。せっかくの機会だから雑には 出来ん。それで遅れるなら仕方ない。予定ってのは大抵 外れるもんだよ」 と笑った。 五人は城下町の状況を調べるのを手始めに、一筆書きの如く ぐるりと村々を巡って行こうと計画を立てた。 翌日朝、吉兵衛は真っ平らの一文字笠を頭に着け、妻のふくに よって新調した羽織に野袴の軽装で、長めの打刀と脇差を 差して、同じ装いの兵吉や平四郎、いつもの武松と正吉を従えて 城を出発した。 「半年でどれほど歩くかわからんが、とにかく順序良く行こう」 吉兵衛達は手始めに、石峰城下の進捗具合と商工業の現状、 人と物の流れについての具体数と近年の変化などを関係者に 尋ねつつ記録することにした。 この頃、京の都周辺など一部の大名達が、それまで商工業者が 持っていた特権を廃して、自由参加を認める楽市楽座の制度を 採用、実施し始めていた。 神保家もその効用を認めて諸城に実施させるなど商業育成に 取り組み、本城の規模に遠く及ばないものの、石峰城下もまた 地域の特色を活かした商工業の発展を促すべく、活動を支援 していた。 特に西北の山林は領内各地の家屋建設や、武具防具や工具製造 での炭釜に利用され、貢献していた。 無論、石峰城や城下家屋の建材も、総て近隣の木を利用した ものである。 木材の伐採と利用は古く、この地方一帯の歴史からしても 数千年は経ていると推測されるが、しっかり制度化し管理された ものではなく、植林までの配慮も無かったため、伐採が続くと 場所によっては荒地に変わるなど生産も不安定になり、地域産業 としては未熟で限定的だった。 その後神保家の統治により、先代武蔵守惟道の下、山林の利用 と植林が推奨されて、林業が領内産業の一角を占めるに至り、 運搬に河川利用も増えて、物流全般も活発化した。 一方、それまで山々で行われていた狩猟も、熊、鹿、猪と いった野生動物に頼っている以上、植林地域とは相容れない ため、地域を区切って存続を図り、食糧や薬、毛皮利用、 植林地域では得られない様々な樹木野草からも食用や薬草が、 猟師や近隣住民の生活の糧となって来た。そして何よりも、 山崩れなどの防災として保護された。 吉兵衛一行は城下の主な商家に、経緯、近況から扱う商品に まつわる事情などを詳しく聴いて回り、物資輸送に携わる人足 の頭領からも同じく近況を聴いた。 石峰城の以前の記録で約二千軒とされた城下戸数は今は二千軒 を超え、人口は一万三千人に一千人程増えていた。 「定住者は地元だけでなく、近隣の山村から移って来たり、 領内東部や他勢力地からの移住もあって、商業の発展と治安が 大きいようですね」 平四郎が束となった書面をながめながら答えた。 「領内での地味な山城と思いきや、しっかり栄えている。 何よりだよな」 長らく領内は本城と東部の方が栄えているという認識だった ため、石峰城下の予想以上の発展は、吉兵衛以下、平四郎達 にも喜ばしく感じられた。 「民家も商家も増えて田畑も広がっているとなると、 石高も上がっておりましょう」 「・・・・てことは、一万五千ではなく・・・・」 「各地順調であれば、一万六〜七千・・・・」 今回の調査は検地目的ではないが、やはり不明で済ませる わけにもいかない。 数年の発展で石峰領も石高は上がっているだろうと推測 できるが、平四郎の笑みは消えて、 「城に報告は当然としても、本城にそのまま知らせれば、 相応の負担を強いられることになります」 負担が増えれば増えた甲斐がない。 「敢えて申し上げれば、各所領の数字など当てになりません。 城主の一存で書き換えられ、過小申告で負担逃れは当然 考えられます。石高から援軍の兵数なども決まりますが、 各地より本城に集まる数字は実際は不正確と推察致します」 皆自分が可愛く、諸城もまた所領が大事である。 納税も少なく済ませたいのは農民も城主も誰でも、古今東西 同じである。あからさまな嘘も多いだろう。 地元出の平四郎が、それを責めているのか、贔屓目に見て 仕方なしと考えた故の発言なのか、吉兵衛には判断が つかなかったが、 「・・・・俺としてはこの石峰領について嘘は書きたくない。 正直にまとめて報告したい。しかし、城側がどうするかは 勝手だ。あくまでもこちらは馬鹿正直に記録して報告 するまでだ。平四郎殿、異存は・・・・」 「はい、関連事として申し上げました。正確に報告することに 異存ござりません。私もそうあるべきと考えております」 と笑みを持って一礼した。 その日は城下での調査であるため、ひとまず城に戻って 正確に書面に記す作業が行われた。 これには平四郎が率先して事務方の者に応援を頼み、 城主箕山内匠助と調査を許可した城山修理、本城へ提出するため の三冊を写本として用意し、原本は責任者として吉兵衛が 預かることになる。 城下の情報は翌日翌々日も念入りに廻って書き足されて 行った。 城下がひとまず終わると、領内北部の村から城との往復の 無駄を省くべく、村から村へと西へ移動しつつ調査を進めた。 基本的な住民数や戸数確認から、田畑の規模、農工商の内訳、 村の近況を聴き回って、関連事を詳細に記録した。 城からの調査として細かく聴き出して、田畑の規模やその経緯 を知ろうとすると、どこも笑顔ながらも困惑気味で、実態を 知られたくないという本音が透けて見える。 「我らは年貢のために調べているわけではなく、石峰領について 徹底的に知りたくて、そのための書物を仕上げようと、城の 許可を得て各地を調べているところです」 吉兵衛が事情を話すといかにもホッとした様子で応対する調子 で、実際のところ、そこで聴く数字が正確かどうかまでは 確かめていない。 (せっかくの詳細な資料なのに・・・・) と思うものの、 「必要とあれば城から直々に各地に令状が出るだろう。徴税に こだわって協力を得られなければ来た甲斐がない。まあ、 村の言い分を受けておこう」 と自身を納得させた。 地域の特色が活かされ、商業が発展し、様々に改善工夫が 進んで着実に村々も大きくなる一方で、意外にも昔ながらの 問題を知らされた。 「山賊?」 「この近隣でも賊が出張って被害を受けているとの 噂があります」 平四郎が答えた。 各地に戦乱が広がると、職にあぶれ食うに困った者達も 増える。その一部は山村に流れて賊となり、各地を転々として 略奪を繰り返していた。 今や有力大名家といえる神保家にしても、その周辺は不安定 で、種々雑多な人々の往来もあり、敵勢力の間者は無論、 罪を犯した者、不逞の輩も領内に入り込む。 西北から西にかけての深い山々は、北や西隣の勢力との距離を 大幅に遠ざけて、その脅威を軽減することに役立ったが、 その反面、賊の隠れ家的領域が出来上がることになった。 生息する熊や猪も危険だが、村人へ害を為す山賊もまた迷惑に 変わりはない。 「噂か・・・・しかし、神保家が広がって山賊が入り込む余地は ないはずだぞ。あれば何よりも石峰城の面目にも関わるし、 断固掃討されるだろう」 神保家に限らず、各勢力も領内安定は必須であり、山賊が 現れれば断固対処が当然だが、領外に逃げられては追撃も 出来ず、中途半端に終わることも度々あった。 隣接する各勢力とも対立状態でなければ建前上は取り決めも 結べるが、相手方に意欲が無ければ連携が上手く行かず、 結局いたちごっこを繰り返すことになる。 平四郎は落ち着きながらも、 「いかに神保領であっても、国境の山道、峠辺りでは往来の者を 襲い、金品を奪う不心得者が現れることは十分あり得ます。 罪人に分別はありませぬ故」 「しかし、それは一人二人の罪人の仕業であろう? 昔の話にあるような山賊とは違うだろう」 吉兵衛らも山賊による村への襲撃は聞いたことがなく、 さすがに今時は無いだろうと思える。 さっそく村人に聴くと、 「ええ、あくまでも噂なんで、でも、山ん中でそういう物盗りが あるかもしれねえです、はい」 吉兵衛一行を見かけて城からの役人と察したか、 他の村人達もやって来て、 「そういう話なら聴いたことはありますが、この村で被害に 遭ったてのは聞いたことねえですよ、なあ」 農夫が振り返って聞くと、他の者達も同意した。 「村に被害は無くても、近隣の峠道辺りで被害があるという ことかな・・・・」 吉兵衛も気になる。 「村人が国境を越えることはありませんから、往来の商人に 被害があったということはあり得ます」 と平四郎が推測した。 「城下の商人は何も言ってなかったがなあ・・・・ やはり国境は治安も行き届かぬかなあ」 吉兵衛達は調査のために巡っているが、城山修理に言われた ように、問題があれば報告する義務も負っている。見逃しが あればまずい。 「せっかくの機会だ、はっきりさせときたいな。何も無ければ よし、あれば解決させる、これに尽きる」 吉兵衛は改めて噂の詳細を聴いて回り、隣村へ移って同様に 聴いた。 「山賊ですか? さあ、なんも聞いてねえですが」 老いた農夫はぶっきらぼうに答えた。 婦人に聴いても、 「さあねえ、そういうのは聞いたことないですよ」 と、せわしく動き回って、まともに取り合おうとしない。 通りすがりの住人も、訪ねた家の住人も、実に素っ気なく、 知らない、聞いたことがないで終始している。 これまで廻った村では、それなりに応えようとする姿勢が 感じられたが、ここではいかにも吉兵衛達を疎ましく思っている 様子で、隠し事でもあるかのようなよそよそしさである。 「・・・・どうも怪しいなあ」 吉兵衛は不審に思い、平四郎も同意して、 「このまま帰るのは得策とは思えません。日数に余裕があります から、数日滞在して様子を見ては如何でしょうか」 「もし賊が現れたら都合がいいですね。一気に討ち取って やりましょう」 兵吉も意気盛んである。 対して正吉は心配して、 「でも、賊となると何人もいるんじゃねえですか? 十人二十人といたらまずいですよ」 武松も気にして、 「村が隠してるなら、詮索する俺らが邪魔でしょうねぇ」 「まあ、まだ決まったわけじゃねえからな。賊に弱いなら 俺らにも弱って欲しいよな。とりあえず強引にでもここに 居座って様子見てやるか」 と笑って、吉兵衛達は村長(むらおさ)の屋敷へ行くと、 玄関先で跪いて出迎えた村長の勘兵衛に事情を話して間借りを 頼んだ。 「しかし、城の偉い方を泊めたとなると、村のもんに詮索 されて、都合が悪いんですよ」 と、シワ多く高齢であろう勘兵衛は渋い顔である。 「なぜだ? 我らは何もやましい事は無いぞ」 「いやぁ、町のもんと違って、田舎のもんはとかく僻みがちで、 贔屓だ何だと疑われまして・・・・」 城から特別に便宜を図ってもらっているのではないかと 疑われるらしく、いかにも迷惑といった表情を隠さない。 平四郎は冷めた目で勘兵衛を見て、 「勘兵衛と申したな。その方、村長として何年になる」 「はあ、先代から受け継いで、かれこれ二十年程になります」 「この近隣で山賊が現れる事実があったことは相違ないな?」 「はい、以前はそのようなこともありましたが・・・・」 「以前とはいつだ?」 「え〜・・・・城が出来る前辺りかと・・・・」 「その後は無いか?」 「へぇ、特にそのような・・・・」 平四郎の問いは間髪を容れずといった調子で、勘兵衛の答えに 刺すように返され、 「この村が被害を受けたり、近隣住民が被害を受けることは?」 「いえ・・・・」 「脅されるようなことは?」 「いえ、そういったことは・・・・」 「賊に関する噂はないか?」 「いえ、聞いたことは・・・・」 「ないのか?」 「はい・・・・」 「村長が村の安全に関わる噂も知らぬとはいかなることか」 勘兵衛は言葉に詰まったが、 「いえ、しかし・・・・」 「その方の周りで噂を知り得る立場の者は他にないか。その方が 無理ならば他の者に徹底的に聞かねばならぬ」 「え〜・・・・」 毅然とした平四郎の問いは遠慮なく勘兵衛に向けられ、 吉兵衛は圧倒される思いでやり取りを見ていた。 すると今度は兵吉が身を乗り出して、 「ちょっと失敬」 と、平四郎に待ったをかける素振りをして勘兵衛にゆっくり 話しかけた。 「旦那、我らは公儀役人として領内を廻っておる。各地を徹底的 に調べ上げてお上に報告する役目だ。各地で問題があれば、 それも逐一報告せねばならぬ」 と、兵吉は勘兵衛の隣にどっかりと座り込み、片手は槍を 立てたまま、もう片方の手を勘兵衛の肩にかけて、 「そこで隠し事があって、後でそれが判ると、我ら全員責任を 問われて腹を切らねばならぬ。それだけでなく、隠した者も 一族諸共、更に重い処罰が待っておる。卑怯者として逆さに磔で 長く苦しめられた後に、何本もの槍で刺されて、更に首を 刎ねられて晒される。簡単には死なせてくれぬ。恥辱にまみれた 心身共に苦痛の重罪だ。村長だろうが城の重臣だろうが、 死ぬときゃ死ぬんだよ。どうだい、無理して不義理して殺される より、無難に済ませて長生きしたいとは思わねえかい?」 と肩を叩いた。 勘兵衛に隠し事があるとすれば、賊からの脅しによることに なる。ならばその上を行く脅しをかけて、どちらか選べ、 というわけである。 平四郎の理詰めに兵吉の脅しが加わり、こうなると吉兵衛も 立場上黙っていられない。 「・・・・勘兵衛殿、仮にだが、これまで問題が続いていたと すれば、これは放っておいた城にも責任があろう。城は断固対抗 すべき立場にある。その方としても村の者達の身の安全も 考えねばならぬとすれば、敢えて曲げることもあろう。だが、 事が進んで深刻になれば、続けてならぬこともある。この際、 自身や村のためにも、偽りなしで願いたい。後悔先に立たず というではないか」 「・・・・・・・・」 しばらく苦悶の様子だった勘兵衛は、 「・・・・実は・・・・」 と、ようやく重い口を開いた。
by huttonde
| 2017-11-14 09:00
| 漫画ねた
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