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熊話 129
2025-10-17
ローマの円形闘技場でクマが戦っていたことを示す
1700年前の頭蓋骨を発見
パルモ (著)

 古代ローマの円形闘技場では、剣闘士同士の戦いや人間と
動物、動物同士の対決といった「闘技」が公的な娯楽として
行われていた。

 今回、セルビア考古学研究所を中心とする国際研究チームが
発表した新たな研究により、ヨーロッパヒグマが闘技の相手
として闘技場に投入されていたことを示す初めての
直接的証拠が確認された。

 発見された約1700年前のクマの頭蓋骨には、打撃痕や感染の
痕跡が残されており、古代ローマにおける動物利用の実態を
明らかにする重要な資料となっている。
この研究は、学術誌『Antiquity』(2025年9月1日公開)に
掲載された

古代ローマ都市の闘技場でクマの頭蓋骨の断片を発見

 2016年、セルビア中部にある古代ローマ都市ヴィミナキウムの
円形闘技場付近で行われた発掘調査中に、ヨーロッパヒグマの
頭蓋骨の断片が見つかった。

 ヴィミナキウムは1世紀に軍事拠点として築かれた都市で、
数百年のうちに最大人口約4万人を抱える地方の主要都市へと
発展した。

 ローマ帝国の多くの都市と同様、ヴィミナキウムにも
円形闘技場が建設され、剣闘士同士の戦いや人間と動物、
動物同士の戦いといった闘技が市民の娯楽として行われていた。

闘技に使用された猛獣たち

 ローマ人は紀元前3世紀ごろから、支配地であるシチリアや
北アフリカ、小アジア(現在のトルコ西部)などからゾウ、
ライオン、ヒョウ、ワニといった猛獣を捕獲し、帝国内の
都市に輸送していた。
 こうした動物の一部は、動物園のような施設で飼育された
のち、強制的な訓練によって人間に従わせられ、最終的には
円形闘技場での戦いに投入されたとされている。
熊話 129_c0072801_09242841.jpeg
4世紀初頭のローマの狩りの様子が描かれたモザイク画 
/ Image credit: Carole Raddato / WIKI commons
/ CC BY-SA 2.0

発掘されたクマは現地調達の可能性

 今回調査されたクマの頭蓋骨は、骨格の特徴や出土場所
から、当時ヴィミナキウム周辺に生息していた在来の
ヨーロッパヒグマとみられている。

 ヒグマ(Ursus arctos)は、ユーラシアから北米にかけて
広く分布する大型の哺乳類で、地域ごとにいくつかの亜種に
分かれている。
 そのうち、ヨーロッパ中部からバルカン半島にかけて分布
するのが、ヒグマの亜種であるヨーロッパヒグマ
(Ursus arctos arctos)である。

 このヒグマは、現在もバルカン地域を中心に生息しており、
当時もこの地に自然に存在していたとみられる。 
 そのため、この個体は遠方から運ばれた外来種ではなく、
地元で捕獲されたものだった可能性が高い。
熊話 129_c0072801_09250703.jpeg
ヴィミナキウム円形闘技場の平面図。
クマの頭蓋骨が発見された区域が強調されている
/ Image credit:Nemanja Marković, Bruce Rothschild,
Danijela Popović, Ivan Bogdanović, Sonja Vuković

闘技の種類とクマの役割

 古代ローマの円形闘技場では、
以下のような形式の闘技が行われていた。

・ムナス(munus):剣闘士同士の戦い。
奴隷や罪人が多く出場する公的競技で、
もっとも伝統的な形式

・ヴェナティオ(venatio):
人間と動物が戦う形式。狩猟を模した演出が特徴で、
観客から高い人気を集めた

・ベスティアリウス(bestiarius):動物と戦う専門の戦士
(ベスティアリ)による競技。訓練された者が猛獣と戦う

 ヨーロッパヒグマも、ヴェナティオかベスティアリウスの
いずれかに投入され、人間あるいは他の動物と戦う場面に
使われていたと考えられている。
熊話 129_c0072801_09250755.jpeg
古代ローマのモザイク画に描かれた戦うクマ
今回セルビアで発見された頭蓋骨の個体は、
地元に生息していたヨーロッパヒグマであり、
このモザイクに描かれたアトラスヒグマとは異なる種である
/ Image credit: Jerzystrzelecki WIKI commons
CC BY-SA 3.0


クマの頭蓋骨が物語る闘技の実態

 発見されたヨーロッパヒグマの頭蓋骨は、
6歳のオスのもので、前頭骨には槍や棍棒のような
武器で受けたとみられる大きな外傷が確認された。

 この傷は致命傷ではなく、治癒しかけていた形跡が
あったが、感染症を併発し、骨髄炎へと進行していた
ことが明らかになった。顎の骨にも炎症の痕が
残されていた。
 さらに、犬歯が異常なほど摩耗しており、
これは檻の鉄格子を長期間噛み続けた痕跡と考えられる。
 研究者らは、このような歯の状態は、飼育下における
慢性的なストレスや栄養不足、自然な摂食行動の
欠如によるものであると推測している。

 これらの証拠から、このクマは短期間の展示や演目に
使われただけではなく、長期間にわたって繰り返し闘技に
投入されていた可能性が高いとみられている。
熊話 129_c0072801_09303159.jpeg
ヴィミナキウム円形闘技場で発見されたヨーロッパヒグマの
頭蓋骨の断片:上)頭頂部(背面)から見た様子。
左前頭骨に病的変化が見られる、中)右側面図。
犬歯が短縮している 下)上顎の犬歯が左右とも
短縮しているのがわかる
Image credit: Antiquity (2025). DOI: 10.15184
/aqy.2025.10173

物的証拠としての意義

 古代ローマにおける動物との闘技については、
これまでも多くの文献や美術作品に記録が残されて
いたが、実際に人間と動物、または動物同士の戦いが
行われたことを裏付ける直接的な物理的証拠は非常に
少なかった。

 2025年には、イギリスで発掘された剣闘士の骨盤に
ライオンの咬傷痕が確認され、人と動物の戦いを示す
初の骨格証拠として注目を集めた。

 今回のヨーロッパヒグマの頭蓋骨の発見は、
動物側の視点から闘技への関与を示す貴重な実例で
あり、古代ローマの娯楽文化や動物利用の実態を
知るうえで、きわめて重要な考古学的資料となっている。

 研究チームは、このクマが闘技中に死亡したか
どうかは断定していないが、傷の性質と感染症の
進行状況から、闘技で負った外傷が死因に
深く関わっていた可能性が高いと結論づけている。

https://karapaia.com/archives/557995.html

by huttonde | 2025-10-18 09:30 | 国外くっくり | Comments(0)
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